作業員向けの細い階段が、急勾配の法面をに敷設されている。ダムの上は歩道となっている。ダム湖の水量は少なく、満水時の半分ほどしかたまっておらず、緑色の湖面から十メートルは崖がむき出しになっていた。 実用一点張りのダムで、ボート乗り場もなく、殺風景な眺めである。彼方に弥三郎岳の頂が認められた。ここまで上って来た観光客は、自分たち以外に一組を認めるのみ。友人に誘われて、閑古鳥の鳴く湖畔の食堂で、ソフトクリームを食べた。三十分もとどまることなく、元来た道を下っていく。 午後四時二十..

 作業員向けの細い階段が、急勾配の法面をに敷設されている。ダムの上は歩道となっている。ダム湖の水量は少なく、満水時の半分ほどしかたまっておらず、緑色の湖面から十メートルは崖がむき出しになっていた。
 実用一点張りのダムで、ボート乗り場もなく、殺風景な眺めである。彼方に弥三郎岳の頂が認められた。ここまで上って来た観光客は、自分たち以外に一組を認めるのみ。友人に誘われて、閑古鳥の鳴く湖畔の食堂で、ソフトクリームを食べた。三十分もとどまることなく、元来た道を下っていく。

 午後四時二十分の甲府行バスに乗った。湯村温泉入口で下車し、常磐ホテルにチェックインした。案内された白根という部屋は、松本清張が小説「波の塔」を執筆した所だった。『或る小倉日記伝』で芥川賞を受賞した清張は、完璧の域に達した短編を数多く書いている。万年筆を握る姿が眼に浮かんだ。
 そこは和室五部屋に洗面所、トイレ、檜作りの内風呂、縁側の先には部屋の露天風呂もついている。部屋を仕切る障子の多さ、ドラマの舞台にもふさわしい豪華な造り、床の間を飾る掛け軸に香炉、希望に満ちた昭和後期に上層階級の宿泊した高級旅館とは、このようなものであったのか。目を見張るものばかりだった。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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