日本一の長さだったエスカレーターで、展望台の上に立った。お昼になり、ようやく小さい渦潮が現れ始めた。昼食をとりたいので、すぐ下のフランス料理のレストランに入った。ここからもよく渦が見える。 手前に大鳴門橋の白い雄姿。鉄道も通せるように、二階建ての構造になっている。ただ、空が曇っているせいで、海面が緑色でいま一つ冴えない。景色の良いところで贅沢するのは、久し振りの気がする。 二十九歳のとき、某文学賞を受賞して、彦根のホテルで昼食会に出た時以来だった。ガラスの向こうには琵琶湖が..

 日本一の長さだったエスカレーターで、展望台の上に立った。お昼になり、ようやく小さい渦潮が現れ始めた。昼食をとりたいので、すぐ下のフランス料理のレストランに入った。ここからもよく渦が見える。
 手前に大鳴門橋の白い雄姿。鉄道も通せるように、二階建ての構造になっている。ただ、空が曇っているせいで、海面が緑色でいま一つ冴えない。景色の良いところで贅沢するのは、久し振りの気がする。
 二十九歳のとき、某文学賞を受賞して、彦根のホテルで昼食会に出た時以来だった。ガラスの向こうには琵琶湖が広がり、ヨットが湖面を滑る姿が目の前に見えたものだ。
 逆立つ波を眺めながら、僕はポーの「メエルシュトレエムに呑まれて」を思い起こした。主人公は岬の上から遠くかすんだ渦潮を眺めていた。その後、自分が呑み込まれることになるとは知らずに。
 今の自分も一幅の絵のような海峡を前にして、デザートのムースを食べている。あと一時間もすれば、観潮船に乗って渦潮に身を任せることになるのに。嵐の前の静けさといったところか。店内の音楽はボリュームを落としている。夜はグランドピアノの生演奏が聴けるらしい。店内には今、自分を除いて一組しかお客がいない。潮は今盛んに、瀬戸内海から太平洋に向かって流れている。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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