高校の修学旅行では、桂浜で闘犬を見た後、フェリーに乗船した。高知港を出港する頃には、すっかり暗くなっていた。フラッシュをたいて撮った写真では、同級生の姿が闇から浮き上がっていた。 出航後は四国の沖を航行していった。沿岸の明かりを甲板に立って眺めていた。船はかなりの速度で進んでいた。夜風が顔に当たるのは快かったが、船縁から下を覗くと、真っ黒な波が白い歯をむき出して、人が落ちてくるのを待っていた。 ぞくっとして、僕は船室の方に戻った。立っていると酔うと言われて、船の進行方向に合..

 高校の修学旅行では、桂浜で闘犬を見た後、フェリーに乗船した。高知港を出港する頃には、すっかり暗くなっていた。フラッシュをたいて撮った写真では、同級生の姿が闇から浮き上がっていた。
 出航後は四国の沖を航行していった。沿岸の明かりを甲板に立って眺めていた。船はかなりの速度で進んでいた。夜風が顔に当たるのは快かったが、船縁から下を覗くと、真っ黒な波が白い歯をむき出して、人が落ちてくるのを待っていた。
 ぞくっとして、僕は船室の方に戻った。立っていると酔うと言われて、船の進行方向に合わせて体を横たえた。頭がゆっくり下がり、ゆっくり上がっていく。船と一体になる感じだった。同級生が旅行の話をしていた。翌朝、大阪港に着けば、そのまま新幹線に乗り込むことになる。旅の感覚に浸れるのは、今夜が最後なのだ。床から伝わってくる揺れを感じながら、いつまでも夜が明けなければいいと思ったものだ。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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