中井英夫は日本の探偵小説が、ポーやドイルを父とし、谷崎を母として生まれたと、谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』の解説で述べているが、江戸川乱歩のこの短編を読んで、大正期の谷崎が描いた怪奇小説の匂いを感じた。 多少古風ではあるが、みずみずしさを失わない乱歩の短編を、藤田新策が幻想的で美しい夢の世界として絵画化した。くっきりとした描線でありながら、現実にはありえない設定をする点で、ルネ・マグリットを連想する画風であるが、描かれているのは明治期の浅草である。 江戸時代の町並みの中に..

 中井英夫は日本の探偵小説が、ポーやドイルを父とし、谷崎を母として生まれたと、谷崎潤一郎『人魚の嘆き・魔術師』の解説で述べているが、江戸川乱歩のこの短編を読んで、大正期の谷崎が描いた怪奇小説の匂いを感じた。
 多少古風ではあるが、みずみずしさを失わない乱歩の短編を、藤田新策が幻想的で美しい夢の世界として絵画化した。くっきりとした描線でありながら、現実にはありえない設定をする点で、ルネ・マグリットを連想する画風であるが、描かれているのは明治期の浅草である。
 江戸時代の町並みの中に、西洋風の建物が混在し、道路に敷かれた線路を、馬車鉄道が走っている。浅草には、関東大震災で倒壊する以前の凌雲閣があった。雲をしのぐ高さがあると、当時の人たちの注目を集めた塔だった。そこから青年が双眼鏡で眺めていたのが、美しい娘だった。
 肉眼ではなく、双眼鏡で見ることで、青年は現実を見据えることを放棄してしまった。探していた娘は、覗きからくりの中の「八百屋お七」となっていた。リアルに描かれた画をレンズで見ると、遠近感をもって生々しく迫って来る。映画やテレビのなかった時代に、現実を忘れさせてくれるのが覗きからくりだった。
 お七に恋した青年は、自身も押絵の中に入り込んでしまう。お七が若さを保ち続けているのは、放火の罪により十六で処刑されたからである。青年は押絵の中で生き続けたため、美しい容貌も崩れて、皺だらけの老人になってしまった。
 耽美的でやや奇怪な物語を、藤田新策は乱歩の文体をしのぐほどの迫力で絵画化した。文章を読むだけでは、一瞬のイメージとして通り過ぎる場面を、読者の目に焼きつけ、虜にして放さないのである。


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