僕が幼稚園児の頃、その家のトイレに閉じ込められた。鍵をかけるのは簡単だったが、開け方を知らなかったのである。気が動転していたが、泣きわめくようなことはしなかった。僕らの世代は、男の子は泣いてはいけないと、しつけられていたからだ。 泣いていると、母は決まって「泣いている子は嫌いです」と答えた。嫌われたくなかったから、しゃくり上げていても、泣くのをやめるしかなかった。そのとき、僕は誰かが入ろうとするのを待った。ようやく、出られなくなったことを話した。 父がトイレの窓から、僕に指..

 僕が幼稚園児の頃、その家のトイレに閉じ込められた。鍵をかけるのは簡単だったが、開け方を知らなかったのである。気が動転していたが、泣きわめくようなことはしなかった。僕らの世代は、男の子は泣いてはいけないと、しつけられていたからだ。
 泣いていると、母は決まって「泣いている子は嫌いです」と答えた。嫌われたくなかったから、しゃくり上げていても、泣くのをやめるしかなかった。そのとき、僕は誰かが入ろうとするのを待った。ようやく、出られなくなったことを話した。
 父がトイレの窓から、僕に指示してくれた。掛け金の上にある、くぎの頭ほどの小さなボタンを、指で押すように言われた。ちょっと押したが、幼児の力ではびくともしない。父に言われるままに、指先が痛くなるのも構わず、全体重を指先のボタンにかけた。ついに、僕はトイレから解放された。生まれてこの方、トイレに閉じ込められたのはこの時しかない。(つづく)


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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