僕の両親は二人とも、子供の時に父親を失っている。父方の祖父は昭和十五年に、リウマチをこじらせて亡くなった。仏壇に飾られた写真は、伯父とよく似ており、和服姿で面長だが、厳しい顔をしている。父は怒られた記憶しか残っていないと、生前語っていたものだ。 母方の祖父は、昭和二十二年に急死した。祖母の話によると、闇市で手に入れた密造酒に、メチルアルコールが混ざっていたからだそうだ。七月初旬の明け方、目が覚めた祖父は、トイレの中で倒れた。急性の腎不全だったらしい。まだ四十半ばの若さだった..

 僕の両親は二人とも、子供の時に父親を失っている。父方の祖父は昭和十五年に、リウマチをこじらせて亡くなった。仏壇に飾られた写真は、伯父とよく似ており、和服姿で面長だが、厳しい顔をしている。父は怒られた記憶しか残っていないと、生前語っていたものだ。
 母方の祖父は、昭和二十二年に急死した。祖母の話によると、闇市で手に入れた密造酒に、メチルアルコールが混ざっていたからだそうだ。七月初旬の明け方、目が覚めた祖父は、トイレの中で倒れた。急性の腎不全だったらしい。まだ四十半ばの若さだった。
 酒屋を営んでいた祖父は、戦時中、商店街の寄合で酒を飲み、「アメリカと戦争しても、勝てる見込みがない」と洩らしたことで通報され、留置場に一晩入れられたということだ。当時女学生だった母を可愛がって、観劇などに連れていってくれたらしいが、どんな顔をしているか分からなかった。仏壇に遺影が飾られていなかったから。
 九十半ばになる伯母に聞くと、「もう写真は残っていないんじゃないかしら。何度も引っ越ししたから」との答え。どんな顔をしていたかと尋ねると、家を継いだ叔母に似ていると教えてくれた。
 その叔母が亡くなって、四十九日の日に線香を上げに行くと、祖父の写真が出てきたと言って見せてくれた。伊勢の二見ヶ浦にある夫婦岩の前で撮影したもので、和服姿で立っている。確かに亡くなった叔母に似ている。泉鏡花を丸顔にしたような顔だった。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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