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ヘルダーリンの『ヒュペーリオン』について
「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
Japanese - May 31, 2022 16:24Books Arts Society & Culture 日本文学 コンピューター ジャズ 電子本 電子書籍 文学賞 青空文庫 epub pdf 高野敦志 Homepage Download Apple Podcasts Google Podcasts Overcast Castro Pocket Casts RSS feed
ヘルダーリンはドイツの詩人で、友人には哲学者のヘーゲルやシェリングがいた。古代ギリシャの汎神論的な世界に憧れを抱いていた。代表作は書簡体小説の『ヒュペーリオン』や劇詩の「エンペドクレスの死」である。統合失調症(精神分裂病)を患い、晩年の三六年間は個室に閉じこもったまま過ごした。 小説『ヒュペーリオン』は、古代ギリシャの汎神論的な、自然との一体感への希求が主題となった物語である。主人公のヒュペーリオンは「一なるもの」の存在に引かれている。 ヒュペーリオンはギリシャ独立戦争に参..
ヘルダーリンはドイツの詩人で、友人には哲学者のヘーゲルやシェリングがいた。古代ギリシャの汎神論的な世界に憧れを抱いていた。代表作は書簡体小説の『ヒュペーリオン』や劇詩の「エンペドクレスの死」である。統合失調症(精神分裂病)を患い、晩年の三六年間は個室に閉じこもったまま過ごした。
小説『ヒュペーリオン』は、古代ギリシャの汎神論的な、自然との一体感への希求が主題となった物語である。主人公のヒュペーリオンは「一なるもの」の存在に引かれている。
ヒュペーリオンはギリシャ独立戦争に参加しようとするが、戦闘に加わることにためらいを感じる。親友のアラバンダは、ヒュペーリオンの幸せを願って、逃げ出した結社のもとに粛清されに行く。ヒュペーリオンはアラバンダに語りかける。「死にたまえ、きみの心情はあまりにも壮麗だ」と。友情を至高のものととらえ、友人の死の決意を崇高なものとして尊重する。
一方、恋人ディオティーマは、ヒュペーリオンの「一なるもの」への思いに感化されていく。もし感化されなければ、素直なやさしい娘として一生を終えたかもしれない。ヒュペーリオンが死を決意していることを知って、ディオティーマは病を得る。恋人が死に、自身も死ぬならば、不可能なもの、死を通しての結合が成就するからだろう。
僕がこの小説を読んだのは、昭和六十年、まだ大学三年生の時だった。あの頃は社会のことはまだ知らず、ロマン主義の世界に憧れを感じていた。当時の心情に合致したからこそ、素直に共感できたのだと思う。
理想的な世界を守り続けようとしても、現実と衝突することは避けられない。生き続けるためには、理想が夢のように薄らぐのに耐えて、自らの生きる道を探らなければならない。それを拒絶して、内心の理想と美を守り通そうとすれば、ヘルダーリンのように精神を病まざるを得ないからだ。
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