九十代の母は車椅子の生活で、身の回りのことも自分ではできない。最近はきちんとした文で話すことさえ難しい。飼っている猫を見て「可愛いわね」と言い、着替えさせようとすると、「バカ」と叫んでこちらを叩こうとする。自分が分からない話は大嫌いらしい。テレビドラマは筋を追っていけないので、「岩合光昭の世界ネコ歩き」の録画を見せたり、童謡を聴かせたりしている。 それでも、記憶は断片的に残っているようなので、母が昔、話してくれたこと、子供時代から、女学生で工場動員されたこと、空襲で家が焼け..

 九十代の母は車椅子の生活で、身の回りのことも自分ではできない。最近はきちんとした文で話すことさえ難しい。飼っている猫を見て「可愛いわね」と言い、着替えさせようとすると、「バカ」と叫んでこちらを叩こうとする。自分が分からない話は大嫌いらしい。テレビドラマは筋を追っていけないので、「岩合光昭の世界ネコ歩き」の録画を見せたり、童謡を聴かせたりしている。
 それでも、記憶は断片的に残っているようなので、母が昔、話してくれたこと、子供時代から、女学生で工場動員されたこと、空襲で家が焼けて引っ越しを繰り返したこと、結婚して子育てを始めた頃まで、文章にまとめてみた。
 それを「一太郎」の読み上げソフト「詠太」を用いて、女性の声で読み上げさせて、毎日母に聞かせている。すっかり忘れて分からない所もあるようだが、うなずきながら聞いて「おもしろい」と答えたり、時には涙を浮かべている。忘れていた記憶が、部分的によみがえっているのだろう。
 認知症は次々と記憶が失われ、わけが分からぬ苦しみに悩まされるらしい。過去の出来事を聞かされることで、かつての自分を断片的にでも思い出すことが、今では母の楽しみになっている。それは僕の家族や親戚、近所の人たちとの触れ合いの記憶であり、毎日少しずつ書き足すことが、今では僕自身の楽しみにもなっている。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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