最御崎寺のユースホステルを、チェックアウトした。高知に出ることにした。室戸岬灯台の前に出ると、同宿した千葉の青年と出会った。灯台を背景にお互いの写真を撮った。別れを告げて、きつい石段を下りていくと、また、彼の姿を見かけた。 会いたいと思っていたからかな、などと考えていると、バス停の前に彼が立っていた。「郵便局まで行きたいんで、途中までご一緒します」と彼は言った。旅行貯金というのをやっているそうだ。旅先で郵便貯金をすることで、旅行の記念とすることらしい。 彼がバスに乗っていた..

 最御崎寺のユースホステルを、チェックアウトした。高知に出ることにした。室戸岬灯台の前に出ると、同宿した千葉の青年と出会った。灯台を背景にお互いの写真を撮った。別れを告げて、きつい石段を下りていくと、また、彼の姿を見かけた。
 会いたいと思っていたからかな、などと考えていると、バス停の前に彼が立っていた。「郵便局まで行きたいんで、途中までご一緒します」と彼は言った。旅行貯金というのをやっているそうだ。旅先で郵便貯金をすることで、旅行の記念とすることらしい。
 彼がバスに乗っていたのは、ごくわずかの間だったけれども、あの笑顔を見ていると、鯨が見られなかった憂さも、それほど気にならなかった。旅の喜びの一つは、そうした人との出会いだ。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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