伊豆長岡の葛城山（５）

　その夜は伊豆長岡駅に近い旅館に泊まった。大部屋と寝室、入口前の小部屋が三つ。それにお手洗い、洗面所、温泉の露天風呂付きという豪華さである。本来は六人部屋だという。
　床の間には「鶴舞千年樹亀遊萬歳池」と書かれた掛け軸や、見事な香炉もあった。古い日本地図が描かれた皿は、本州の横に松前と蝦夷地があり、位置関係がおかしい。さらに、北方には小人国、南方には女コ（おなご）国まである。『ガリバー旅行記』と関係があるのだろうか。
　夕食をとる前に、入浴することにした。大浴場はあまり広くなかった。そこで、貸し切りの浴場に入った。湯をよくかき混ぜると、ちょうどよい湯加減になった。源泉掛け流しになっている。pH8.0のアルカリ性で、肌がしっとりする。ラドンを発する石が入っているので、健康効果も期待できる。屋外の空気が入ってくる露天で、湯に浸かった後、風に当たっているのも気持ちいい。（つづく）

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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