私と彼は学生時代からの旧友で、ともに母を亡くしていたことで、親しい間柄になっていた。彼は社長をやっていた。半年前に金を貸し、久し振りに再会してみると、社長を辞めてしまい、廃屋のような家で自堕落な暮らしをしていた。ドイツで買い求めたという豪華な椅子に腰掛けて。 働いて金を返せと彼に言うと、金はないし、働く気もないという答え。私は激高して、彼を人間の屑だとののしり、彼の座っていた椅子を取り上げてしまう。この椅子だけは持っていかないでくれという哀願を無視して。 私は取り上げた椅子..

 私と彼は学生時代からの旧友で、ともに母を亡くしていたことで、親しい間柄になっていた。彼は社長をやっていた。半年前に金を貸し、久し振りに再会してみると、社長を辞めてしまい、廃屋のような家で自堕落な暮らしをしていた。ドイツで買い求めたという豪華な椅子に腰掛けて。
 働いて金を返せと彼に言うと、金はないし、働く気もないという答え。私は激高して、彼を人間の屑だとののしり、彼の座っていた椅子を取り上げてしまう。この椅子だけは持っていかないでくれという哀願を無視して。
 私は取り上げた椅子に座ってみる。すると、幼時に母の膝にいた時のような安楽を味わう。それだけで満足してしまい、彼と同じように働く意欲を失ってしまう。何物にも代えがたい幸福で、あとは何も要らない。そんな魔力を持つ椅子だったのだ。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
https://podcasts.apple.com/jp/podcast/qing-kong-wen-ku-no-zuo-jia/id504177440?l=en

Twitter
https://twitter.com/lebleudeciel38

Telegram
https://t.me/takanoatsushi

GETTR
https://gettr.com/user/takanoatsushi


にほんブログ村



人気ブログランキングへ







ランキングはこちらをクリック!

amzn_assoc_ad_type ="responsive_search_widget"; amzn_assoc_tracking_id ="faucon-22"; amzn_assoc_marketplace ="amazon"; amzn_assoc_region ="JP"; amzn_assoc_placement =""; amzn_assoc_search_type = "search_widget";amzn_assoc_width ="auto"; amzn_assoc_height ="auto"; amzn_assoc_default_search_category =""; amzn_assoc_default_search_key ="";amzn_assoc_theme ="light"; amzn_assoc_bg_color ="FFFFFF";
Twitter、facebookでの拡散、よろしくお願い致します!

Twitter Mentions