「ウェイン・ショーター 無重力の世界」

　ジャズのサックス奏者、ウェイン・ショーターは、想像力が豊かな少年だった。空き地の草原は、サハラ砂漠になったり、火星になったりした。父が聞いていたラジオの音楽から、映画のさまざまな場面を想像した。音を聞くことによって、想像力を刺激していたのだ。幻想的なおとぎ話には、宇宙全体の根幹が描かれていることにも気づいた。　また、漫画を紙の上からなぞることで、肉体の動きをとらえることを学んだ。やがて、いきなり人物が描けるようになった。模倣が創造につながったのである。　美術学校に入ったもの..

　ジャズのサックス奏者、ウェイン・ショーターは、想像力が豊かな少年だった。空き地の草原は、サハラ砂漠になったり、火星になったりした。父が聞いていたラジオの音楽から、映画のさまざまな場面を想像した。音を聞くことによって、想像力を刺激していたのだ。幻想的なおとぎ話には、宇宙全体の根幹が描かれていることにも気づいた。
　また、漫画を紙の上からなぞることで、肉体の動きをとらえることを学んだ。やがて、いきなり人物が描けるようになった。模倣が創造につながったのである。
　美術学校に入ったものの、授業に飽き足らず、さぼって映画を見るようになった。それが音楽に転向するきっかけとなった。チャーリー・パーカーのジャズとの出会いが、ショーターの運命を変えた。
　アート・ブレーキーは、才能のある若者をバンドに集めていた。そこから多くの演奏家が自立していった。ショーターの能力も見抜いて、演奏の中で自らの音を探究することを許した。
　魅力的な女性を呼べないような奴はだめだというのは、アート・ブレーキーの言葉である。マイルス・デイビスは、女を集められないような奴は転職しろと語っていた。繊細な女性の感性を虜にできないようでは、一流のアーティストではないということだ。
　マイルス・デイビスとの出会いによって、ウェイン・ショーターは「無重力の世界」を構築していった。作曲の才能にも恵まれていたので、マイルス・デイビスに多くの楽曲を提供した。単に速く吹くだけでは、底が浅くなりやすいが、ショーターの場合は、いかに速い演奏でも、思想が込められており、無駄な音は一つもない。ショーターの世界は、引き算によって作られているのだ。
　そこで重要となるのは、音と音の間にある空間である。それを感じることによって、聴く者は音楽と一つになる。未知の次元に通じるポータルが開かれ、今まで誰も知らなかった世界、宇宙の果てに導かれていくのだ。

「ウェイン・ショーター 無重力の世界」はAmazon primeで視聴できる。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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