札幌すすき野の首切り事件

　札幌すすき野のホテルでの首切り事件は、女装の中年男が医師の娘を虐待し、終わったはずの関係を蒸し返したので、ついに娘が殺害するに至ったのだという。
　当初は首切り事件の異常性から、女装男に対する屈折した愛情があって、相手を殺害した犯人は首を持って逃走し、首の前で心中するのではないかとの憶測まで流れた。ワイルドの「サロメ」や、谷崎潤一郎の「武州公秘話」まで、僕は連想してしまった。
　空想とは程遠い事件だった。女装男との関係が切れないので、娘は相手を殺害し、鋸で首を切り落とした。何でそんなことをしたかというと、男のスマホの顔認証のために、首を切り落とす必要があったからだという。娘の父母もそれに協力したため、逮捕されてしまった。顔認証は、眠っている顔ではうまくいかないが、デスマスクでは可能らしい。
　娘がトラブルに巻き込まれているなら、警察にすべてを任せればいいわけだが、逮捕に至る以前に、女装男のスマホに保存されている写真が、インターネットに流れてしまったら、娘の人生が台無しになると思ったのだろう。子供を離れた位置から監視していて、いざとなったら飛んでくる親のことを、ヘリコプターペアレントというのだそうだ。
　女装男の首は、医師の家の浴室に放置されていたという。犯行自体の綿密さに比べ、証拠を隠滅する気が乏しかったのだろう。実際に娘が犯した凶行を目の当たりにして、呆然としてしまったのか。

「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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