「ゴジラ-1.0」について

　ゴジラシリーズの30作目だが、戦中から戦後が舞台なので、第１作より前を描いたということで、-1.0としたのだろう。第二次世界大戦の末期、特攻隊員だった敷島浩一は、突如現れたゴジラに陣地を襲撃され、仲間一人とともに辛うじて生き残る。他の隊員はゴジラに食べられてしまったり、踏みつぶされてしまったり。初期のシリーズのように、ゴジラはあくまでも悪役に徹している。　終戦後、復員した浩一は、実家が焼けて両親が亡くなったことを知る。焼け跡の中で知り合った大石典子とその連れ子と、共同生活を..

　ゴジラシリーズの30作目だが、戦中から戦後が舞台なので、第１作より前を描いたということで、-1.0としたのだろう。第二次世界大戦の末期、特攻隊員だった敷島浩一は、突如現れたゴジラに陣地を襲撃され、仲間一人とともに辛うじて生き残る。他の隊員はゴジラに食べられてしまったり、踏みつぶされてしまったり。初期のシリーズのように、ゴジラはあくまでも悪役に徹している。
　終戦後、復員した浩一は、実家が焼けて両親が亡くなったことを知る。焼け跡の中で知り合った大石典子とその連れ子と、共同生活を送るようになる。
　そんなとき、ゴジラが再び現れて、銀座の街を荒らし回る。働いていた典子を助けるために、浩一は駆けつけるのだが、ゴジラの襲撃により、典子は生死不明となってしまう。
　ゴジラはいくら砲撃しても、たちまち傷が治ってしまう。ただ、弱点は体の内部だった。そこで、浩一は修復された戦闘機に乗り、ゴジラの口に向かって突撃する。特攻隊員が日本を守るために死んでいったように。国のために命を捨てることがいかに崇高な行為かと、若者に刷り込むための映画かと思った。
　予想通り、浩一はゴジラの口に向かって突撃し、ゴジラとともに爆死したようだった。浩一の犠牲によって日本は救われたという筋書かと思ったが、浩一はパラシュートで脱出していた。ただ、あの状況で機体から脱出するのは無理なのではないか。そればかりか、死んだはずの典子が、病院に収容されていることが分かり、浩一は再会を果たしてハッピーエンドとなる。
　アメリカ人が作るゴジラは、娯楽映画に徹していてつまらないが、この作品は丁寧な筋書で作られていて好感が持てた。ただ、日本人の感覚からすると、浩一が爆死したところで終えるのが自然なのではないか。にもかかわらず、浩一は脱出して生還し、死んだはずの典子まで出てきて再会を果たす。
　アメリカでの上映を意識して、アメリカ人のお気に召すような結末となっている。もし典子が生きていたとしても、浩一が死んでしまえば、見る者はカタルシスが得られる。アメリカ人の作る娯楽映画は、結末で恋人が再会してキスをする。この映画ではキスこそしなかったが、愛する二人が奇蹟の再会を果たすという点で、アメリカ人の観客におもねった結末となっている。
　なお、敷島浩一を神木隆之介、大石典子を浜辺美波が演じた。朝ドラの「らんまん」で万太郎、寿恵の夫婦を演じた二人を抜擢したのは、朝ドラの観客に見てもらおうという制作者の思惑だろう。

　追記
「ゴジラ-1.0」は、現在、Amazon prime会員には無料で公開されている。


「青空文庫」の作家、高野敦志の世界
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